擁壁と雨
擁壁の水抜き穴から流れ込む雨水をとめて欲しい
水の国とも言われるほど水と関係の深い日本。その地形は典型的な島国でグルリと囲まれた海に向かって低くなる傾斜地です。雨や雪の降水量も多く海に流れた水がまた雨や雪となって降ってくるという循環を繰り返しています。
そんな山坂が多く雨の多い国だから起きる悩みもあります。
雨が降ると流れ込んでくるお隣からの水。擁壁から滲み出るくらいなら気にならないけど、うちの敷地に水溜りができるほど湧き出てくる擁壁の水抜き穴からの水、そして雨樋から垂れ流しの水捌けの悪い庭の水。
『庭はぬかるんで汚くなるし、ジメジメと湿っぽくて建物が痛むんじゃないかと心配になります。
なんでお隣の水のことで、こんなに我慢しなければいけないの?』
どうする?
1.お隣さんに言って対応してもらう
2.何もしないで我慢する
極論を言うと、どちらかの選択しかありません。
考えられる対応策は、
・宅地内に降った雨を集水ますへ集めて道路へ流す。
・宅地内に降った雨を浸透ますへ集めて敷地内で処理する。
・擁壁の下にU字溝を設置する。
など、費用をかけて工事する。
この場合は、誰が費用負担することになるのでしょうか?
設計者、開発業者、許可した人、所有者、それとも被害者。犯人探しをしても責任を取ってもらえる保証はありません。
所有者へ詰め寄っても、雨水の害を事前に想像できるはずもなく、所有者も被害者であると言えるでしょう。
お互いが主張することを続けても、関係性が悪くなるだけで、そこを生活の拠点としている当事者双方にとって良いことではありません。
だからと言って、一方的に泣き寝入りする必要もなく、穏やかに話し合うことが一番の解決策になります。
争っても犯人探しをすることになるだけで、時間とお金だけが出ていくことになります。そうなると和解すらできなくなり、本来幸せで天国のような生活の拠点が、地獄になりかねません。
争うことなく友好的に話し合うこと。これが最善です。
擁壁と雨水に関する法律的解釈
参考までに、擁壁と雨水に関係する考え方や法律について少し書きます。私は弁護士ではないので自分なりの解釈になります。正確な条文と意味についてお知りになりたい方は、弁護士などにご相談してください。
擁壁は、上下どちらの土地に作られるのか?
これはどちら側にも作ることはできますが、慣習として、高い方の土地を支えるために造ると言う考え方から高い方の土地に属することが一般的です。よって、隣地境界は擁壁の下部であることが多い。
擁壁については、建築基準法と宅地造成規制法で定められたルールはありますが、構造や水抜き穴についての物理的な制限だけです。
民法第214条から第222条が水と擁壁などの工作物に関する法律になると思われますが、下記の三つの条文を理解しておくだけで十分です。
第214条(自然水流に対する妨害の禁止)
土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。第216条(水流に関する工作物の修繕等)
他の土地に貯水、排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。第218条(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)
民法より引用
土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。
つまり、そのままの自然な山で、上から流れてくる水を堰き止めたり、流れを変えることは禁止します。そして、屋根や擁壁などの工作物を作る場合は、隣地に直接水が流れないようにしなければならない。
と解釈できますので、建築基準法や宅地造成規制法などで水抜き穴を作る場合には、そこから出てくる水を自分の敷地内で処理しなければならない。ということになります。
実際には、処理されていない場所の方が多く、何年何十年も前のことを蒸し返しても解決できないことの方が多いので、気にしないと言うことも必要になります。
性格的に気になって我慢できない方は、購入しないことが最善の解決策になります。
さいごに
擁壁があるということは、高低差がある土地です。
接道している道路より上か下か(高いか低いか)も重要です。
隣地が道路の場合、公衆用道路でしたら道路の両端はU字溝かL字溝などの雨水処理用の構造になっています。この場合、道路に接している部分には水抜き穴からの水を処理する工事をすることなく擁壁を作ることができます。
ただしこれは、土地の方が道路より高い場合に限ります。水は上から下に流れます。道路より土地が下にあると、生活で出た汚水・雑排水や雨水を簡単に処理できません。
以前は、道路よりも低い土地は、一旦水を集めてポンプなどの機械設備で上の道路に送ったりしていました(一般的に「ポンプアップ」という)が、いまではこの方法を許可しないところがほとんどです。
水を下に流すため、他人の所有地(隣接地)を経由して放流することになり、他人にご迷惑をかけ続けることになります。その分余計な費用負担が発生することもあります。
悪いことばかりでもなく、道路より高い土地は、その高低差を利用して車庫(一般的に「地下車庫」という)を作ることができるため、同じ広さの土地でも車庫のスペース分有効に広く使えることになるので、建売住宅では若いカップルに人気があります。
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