『横の通路は当家の土地でしたがいつのまにか隣の人の土地になったそうです。お宅の権利は消えてます。という説明でした』
測量の挨拶をしたら、ある地主さんが話してくださいました。
公図は正しい!?
「よく分からないんだけど、見てください」と。金庫にある書類をお持ちになり広げてみると、隣地との境界確認書と公図がありました。
公図は、隣地に接する数筆の土地の1筆が、隣地の通路の一部になっています。ですが、境界確認書は、隣地に飛び出す形で通路の一部となっている土地の形が変わり、隣地の土地が膨らんで通路になっていました。話を伺っていくと、
- 昔から隣地の所有者とは関係性が悪く、勝手に使われていることに気分が悪かったが、怖くて話し合いの機会を持つことが出来なかった。
- 自宅を建て替えるときも隣地通路部分は現状の直線のまま、境界の確認をしなかった。
- 隣地との境のブロック塀を現状の通路を確保したまま作った。
- 再建築したハウスメーカーには伝えたが何もしなかった。
- 数年後、隣地の土地の測量が行われ、境界確認書に署名押印した。その時に権利が無くなったと説明された。
幾つか『なぜ?』ということもありますが、現在の隣地所有者からの依頼で隣地を再度測量し、境界を確認したいので、その消えた土地の権利のことについても調査することになる旨をお伝えしました。
地図訂正
対象地と隣接地に関する調査、特に分合筆の経緯と地積測量図の調査、そして旧公図の確認。これで事実関係を推測できることが多々あります。※とはいえ、解決できないことも多数あるから裁判になることもあるのです。
本件では、土地が分筆されて公図に線引きされるときに誤っていた可能性が高かったという結果でした。
原因の究明と問題の解決は全く別の話ですが、登記に関係する一筆の土地の境界に関する問題は、土地家屋調査士の専門分野であり、徹底した調査をすることで原因を究明することが出来る可能性は高いと思われます。
地図訂正の申出
誤っている線を訂正することで影響のある全ての土地の所有者の承諾を得ることで法務局の公図(地図)を訂正するように申請することが出来る制度。地図訂正の申出は書類作成と承諾書に署名捺印を貰う作業があり、費用の負担も考慮されてか、申請することは対象地の所有者の選択による。
地積測量図
本件の原因究明になりました。誤記が疑われる筆界を含む土地の登記簿の調査および過去に提出された全ての地積測量図を確認したところ、尺貫法(間・坪)で作成されたものとメートル法(m・㎡)のものが混在していました。尺貫法で作成された地積測量図をメートル法に換算したところ、公図との矛盾点が判明しました。
公図
明治初期にまでさかのぼるような古い字図が作成された当時は,測量技術が未熟であったため,一般的な字図(公図)の性格として,配列,曲がり具合,地形的特徴等の定性的な事項については比較的正確に記載されているが,距離,角度,面積等の定量的事項については必ずしもそうではなく,この傾向は特に山林において顕著であると言われている。
平成14年6月27日福岡高等裁判所 平成9年(ネ)第785号境界確定請求控訴事件判決より一部抜粋
要するに公図の見方として、距離・角度・面積は不正確だが、位置・曲がり・形については比較的正確である。とされています。
そして、昔の公図は和紙で作成されていました。この1枚の和紙に線を書いたり消したりしてきました。この紙の図面からマイラーというポリエステルに用紙が変わり、スキャンにより電子化されて現在のコンピューター管理となりました。紙の保管では、折り目が破れたりして線が消えたり繋がりが分からなくなることもありました。それを人の手で転写して今に至るのですが、写し間違いなどの誤記もありました。
この転写ミスがなかったかを確認するために、法務局に保管されている古い時代の和紙の図面も確認します。
本事案では古い公図上でも一筆飛び出している形でしたので、隣地所有者間で納得できる分かりやすい証拠がなく、話し合いが進まなかったのではないかと思われます。
土地家屋調査士や測量士などの専門家でない限り、このような調査や原因究明をすることはできないと思います。私も不動産業界に30年以上関わっていますが、土地家屋調査士になった後も実際に経験するまでは何がどうなっているのか全く分かりませんでした。
地図訂正を申出するメリット
- 地積更正登記が申請しやすくなる
- ご売却や分筆登記などの処分がしやすくなる
- 境界トラブルの防止になる
- 金融機関への担保にし易い
いつでもだれでも申出すれば訂正できるとは限らず、登記官の職権で訂正されるものなので、法務局へ事前相談のうえ可能であれば、申請しておいた方が今後のためにもよろしいかと思います。
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