事業資金を増やすため、相続で財産を分配するため、まとまったお金がすぐに必要になった。理由は人それぞれです。ですが、不動産をお金に換える選択をした方の望みは皆同じで、一日でも早く、そして、一円でも高くお金を手にしたいということです。その方法は、不動産を担保にお金を借りるか、不動産を売却するかの2択になります。
売却するか、融資を受けるか、どちらの選択をしても不動産を高く売却するための準備が出来ていなければ、早くお金にしたいという事情が取引相手に知られるほど、足元を見られて取引価格が引き下げられることになってしまいます。
ここでは、不動産の価値を下げている三大要因とその対処法についてご紹介させていただきます。事前に解決していれば、対等に取引相手と交渉できるため、相場価格よりも低すぎる価格で取引に応じることがなくなり、満足な取引が出来る可能性が高まります。
買主が負担したくない3大条件
何の問題もなく購入後、すぐに利用できる状態になっている不動産ほど他の物件と比べても流動性が高く競争力があるといえます。すぐに利用できる状態とは、土地なら境界が決まっていて隣地とのトラブルが一切なく、ガラや浄化槽などの地中埋設物もなく、土壌汚染の心配もない更地の状態です。中古住宅やマンションなどの区分所有建物では、管理費や修繕積立金の滞納がなく、管理もしっかりされていて、雨漏りやシロアリなどの被害もない状態です。
そのほか、過去に事件や事故が起きていないなど精神的に安心できること。立地を考えたら、南側に広い駐車場や工場、倉庫などのまとまった土地(将来、マンションなど高層の大きな建物が建築される可能性があり、建築されると日照がなくなる土地)がないことなどです。
立地など人の都合で変えることのできない問題は別にして、隣地との境界の確認や塀の越境確認などは面識のある売主が解決する方が、新しい面識のない買主が解決するよりも何倍・何十倍も早く、費用も安くできるものです。
不動産を所有されている個人の皆様には、遅かれ早かれ相続によって当事者になる日が来ます。相続人の問題であり、自分が死んだ後のことなど知らない、と言われるのでしたら、その対象不動産の価値は下がることになるでしょう。
当事者間では分かりあっていることでも、売買や相続など当事者が変わることで少しずつ分からなくなっていきます。時間が経てば経つほど分からないことが増えていきます。分からないことが増えるほど、解決する費用と時間も増えていきます。
ご近所付き合いがあるうちに一日でも早く、次の3つ(境界・越境物等・私道)の問題だけは解決しておかれた方がよろしいかと思います。
境界確定測量
当該所有土地と接する全ての土地との境界点と境界線の確認。既存の境界標がある境界点、境界標がない境界点や境界標がズレてしまっていると思われる境界標を土地所有者立ち会いのもと正しいと思われる場所に復元して設置する。境界立会後は、資格者(不動産登記を申請する予定がある場合は、土地家屋調査士が望ましい)に境界確認書を作成してもらい、後日のために境界立会をした隣接土地所有者と署名捺印のうえ双方1部を保管しておく。
測量結果と登記簿に記載されている面積に差異がある場合には、土地地積更正登記の申請をされた方がより望ましい(登記をすることで、境界確定測量の結果が当事者間のみの覚書から公に公開された記録として法務局で永久に保存されることになる)。
稀に境界確認に非協力的な土地所有者もいるため、境界確定測量が完了できないことがある。その場合、法務局の筆界特定制度を利用したり、境界確定訴訟といった裁判をすることもできるが、決して安いとは思えない費用と長い時間が必要になるため、お勧めできる制度とは言い難い。
総じて、当事者から相続人、相続人から買主と、関係性が希薄になるほど協力的ではなくなる傾向がある。よって、所有している土地の境界確定測量を行っていないことが判明した時には、是非、境界確定測量をご検討いただきたい。
地中埋設物と越境物
古家がある土地を購入したから建て替えのために解体工事を発注しました。建物の基礎を撤去していたらその下に杭があった、おそらく以前に建っていたのであろう工場のコンクリートガラが埋められていた、浄化槽がそのまま埋まっていた等、よく聞く話です。その埋設物の撤去や工場跡の汚染物質を含んだガラの回収など土壌汚染対策の費用はだれが負担するのでしょうか?
また、境界線上にまたがって作られている万年塀、この万年塀の所有者は?当該土地所有者?隣地の所有者、それとも共有物?さらにお互いの庭木が相互に越境している、根が万年塀を突き壊してしまってる...等々。その対処を決める交渉は誰が行うのですか?その費用負担は?
こんなに不確定要素がある状態では買主も怖くて購入することが出来ません。売主がいくらでもいいから引き取ってください、となってしまうと、二束三文、否、タダならとなってしまいます。さらに、このような取引が成立するようになったから、お金をもらって土地を引き取る不動産業者が出てきたり、一定の条件のもと負担金を課したうえで国が土地を引き取る制度が出来たりしたのだと思います。
不動産業者が引き取るということは、ビジネスになる。ということです。
安易に諦めるのではなく、多少面倒でもご自身で万年塀の所有者は誰なのかお隣さんに聞いてみたり、土地の地歴から土壌汚染の対処法を調べてみたり、越境に関する覚書を作成したりと、できることはあります。
不確定要素が少なくなり、対処法が分かれば、その解決費用を見積もることができます。解決費が算出出来たら、費用を負担してまで不動産を引き取ってもらうという選択肢はなくなるのではないでしょうか。試算すると想定以上の金額で売却できる可能性がある物件かもしれません。
私道の制限
不動産は土地に建物を建築して活用することで資産価値が生じます。都心の便利な一等地に土地を所有していても道路に接していなければ建物を建てることが出来ないだけでなく、出入りすることすらできません。それでも、固定資産税などの税金は負担しなければ維持することもできません。まさに負動産ですね。
そして、道路とは見た目や物理的に人や車両が通行できる空地のことではなく、建築基準法で道路と認定されている公開空地のことです。この建築基準法で認められている道路に接していなければ建物を建築することが出来ません。また、道路には国や都道府県、市区町村などの公共団体が所有する公道と特定の法人・個人が所有する私道があります。行動に接している土地でしたらさほど心配することなく自由に通行や上下水道などのインフラの整備もできるのですが、接している全面の道路が私道だった場合は要注意です。
道路といっても他人の土地です。黙って勝手に使用することはできません。逆の立場を想像してください。面識も付き合いもない全くの赤の他人が、断りなく自由気ままに自分の土地を使用していたら如何されますか?
金銭を要求したり、あまりにも自分勝手でわがままな態度を続けられたら使用禁止(通行止め)にしたいと思いませんか。このように私道所有者との関係が一度悪化してしまうと、良好な関係に修復することは難しく、最悪の状態を覚悟しなければなりません。
持分のない私道に接している土地所有者が、私道の所有者と対立してしまうと、その土地は未接道の状態と変わりなくなってしまいます。
道路に接していない土地に不動産としての価値はありません。
最悪な状態にならないように、私道に接している土地の所有者は、私道の所有者から私道の通行(車両を含む)承諾と上下水道など埋設管を設置するための掘削および設置したまま使用し続けさせてもらう使用承諾を書面で取得しておくことで土地の価値を維持することが出来ます。
まとめ
売却でも担保にするときも不確定要素は極端に評価額を下げることになります。紛争になる可能性の高い問題ほど、早く解決しておく必要があります。事前に解決しておくことで、各不動産が本来持っているであろう資産価値を最大限引き出すことが可能になります。
- 境界確定
- 越境物・地中埋設物の除去
- 私道の通行・掘削使用承諾
境界確定は土地家屋調査士や測量士などの専門家に依頼することになりますが、越境物や地中埋設物の調査や私道の通行・掘削使用承諾書の作成は土地の所有者本人でもできます。分からないことは、不動産会社や土地家屋調査士などの専門家の無料相談を利用しても良いかと思います。ただし、ご本人の努力なく『素人なので全く何からはじめていいのか分かりません。1から最後までタダで教えてください』と、ご相談されては、応じてくれる専門家を見つけることはできないでしょう。
ですが、ご本人の努力で越境物・地中埋設物の調査、私道の承諾書を取得することが出来たら、数十万円からの費用削減が出来ます。そして、不動産の価値に換算すると数百万円から数千万円になることです。ゆっくり時間が掛かっても大丈夫なようでしたら、すぐにでも挑戦してみてください。
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